仙台高等裁判所 平成6年(ネ)330号 判決 1995年10月31日
控訴人
岡三沢共有地管理組合
右代表者組合長
山本宗六
右訴訟代理人弁護士
山崎智男
被控訴人
三沢共有地地主組合
右代表者副組合長
根岸金雄
右訴訟代理人弁護士
宮森正昭
主文
原判決及び原追加判決をいずれも取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 争いのない事実
1 控訴人と訴外北村和哉(以下「北村」という。)間の青森地方裁判所八戸支部昭和六二年(ワ)第九八号帳簿等引渡請求事件(以下「第一事件」という。)について、平成三年四月一〇日判決が言い渡され、同裁判所は、同五年六月一四日、右判決に執行文を付与した。
2 控訴人は、被控訴人が北村の占有を承継したとして、平成六年二月九日、青森地方裁判所八戸支部に承継執行文付与の申請をし、同裁判所書記官は、右承継の証明が十分であるとして右承継執行文(以下「本件承継執行文」という。)を付与した。
3 被控訴人と北村間の青森地方裁判所十和田支部平成四年(ワ)第二六号帳簿等引渡請求事件(以下「第二事件」という。)について、同年五月二八日判決が言い渡され、同裁判所は、同年六月一八日、右判決に執行文を付与した。
4 北村は、右同日、被控訴人に対し、原判決別紙(二)帳簿等目録記載の帳簿類(以下「第二事件帳簿類」という。)を引き渡した。
二 被控訴人の主張
1 本件異議理由
第一事件表示の引渡請求権は、北村と控訴人間の委任契約終了に基づく請求権であり、このような債権的請求権に対応する義務者は右委任契約の受任者に限られるから、その債権債務の関係外にある占有承継人に対しては、その権利を行使できないものと解すべきである。したがって、第二事件の判決に基づいて北村から第二事件帳簿類の占有の移転を受けた被控訴人に対しては、第一事件の債務名義の執行力は及ばず、被控訴人に対して承継執行文を求めることはできないから、本件承継執行文の付与は取り消されるべきである。
2 控訴人の主張に対する反論
第一事件の判決は、控訴人主張のように、原判決別紙(一)帳簿等目録記載の帳簿類(以下「第一事件帳簿類」という。)が控訴人の所有であることを認定したとは到底理解することができない。
三 控訴人の主張
1 控訴人は、第一事件において、北村に対し、帳簿等保管、作成の委任契約の解除、所有権又は控訴人の組合会則六条1、2の規定に基づき、第一事件帳簿類の引渡しを求めた。
2 第一事件の第一審及び控訴審判決においては、直接的には控訴人の北村に対する委任契約解除による引渡請求権(債権的請求権)を認定しているが、その背後には、控訴人の第一事件帳簿類の所有権に基づく引渡請求権(物権的請求権)を担っており、前者の引渡請求権は後者の引渡請求権をも兼有しているものと解すべきであるから、第一事件の判決の既判力は、同事件の控訴審の口頭弁論終結後の占有承継人にも及ぶものというべきである。
3 第一事件の控訴審の口頭弁論終結日は平成三年一〇月一五日であり、被控訴人が北村から第二事件帳簿類の占有の移転を受けたのは同四年六月一八日である。
したがって、被控訴人の右占有移転は、民事訴訟法二〇一条一項の控訴審の口頭弁論終結後の占有移転となるから、被控訴人は右の占有承継人に該当する。
第三 証拠
証拠関係は、原審及び当審における各記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 前記争いのない事実に甲第一ないし第三号証、乙第一号証の一、二、第二、第三号証に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人と北村間には、北村から控訴人に第一事件帳簿類のうち番号5及び6を除く帳簿類(以下「本件帳簿類」という。)の引渡しを命ずる判決が確定しており、他方、被控訴人と北村間には、北村から被控訴人に第二事件帳簿類の引渡しを命ずる判決が確定していること、第一事件の控訴審判決は、平成三年一一月二九日に言い渡されていること、被控訴人は、同四年六月一八日、北村から第二事件帳簿類の引渡しを受け、同帳簿類を現に占有していること、本件帳簿類は、第二事件帳簿類のほか、共有持分権異動届書については昭和二五年度以降の分を含むものであること、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。
右事実によれば、本件帳簿類(ただし、共有持分権異動届書については昭和二五年度分のみ)については、被控訴人が北村から引渡しを受けて占有を承継し、現在も占有しているものであるところ、右占有は、第一事件の控訴審の口頭弁論終結後のものであることが明らかである。
二 そこで、被控訴人の本件異議理由について、以下判断する。
1 前記争いのない事実に甲第一ないし第三号証、乙第一号証の一、二、第二ないし第四、第五号証、第一〇号証の一ないし三、第一六号証の四、第一七号証の二、三、第二一号証、第二七号証の一、七、当審における控訴人及び被控訴人の各代表者の本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一) 岡三沢部落と駒沢部落の住民は、字淋代平、字猫又、字小山田及び沼頭山の払下げを受けて部落の入会地としていたほか、大正一二年七月二一日、従前から入会地として使用してきた字平畑の原野三筆を、当時の宮内省から、払下名義人として北村要ほか三六名で払下げを受けた(以下、払下げを受けた各入会地を「本件共有地」という。)。本件共有地については、右払下げ前の大正二年ころから、管理のための諸帳簿が作成されるようになり、その後は部落の代表者である部落総代によって、少なくとも本件帳簿類が作成及び保管されてきており、部落総代が交代する都度、右帳簿類の保管及び作成は新総代に引き継がれてきた。
(二) 控訴人は、昭和四七年一二月六日、本件共有地の適正な管理を維持し、共有者間の理解と信頼を高め、もってできるだけ早く分割登記を行うことを目的とし、右土地の共有者を組合員として、「岡三沢共有地組合」との名称で結成されたものである(昭和六一年に「岡三沢共有地管理組合」と名称を変更した。)が、その主たる事業は、共有地の持分の確認、賃貸契約、賃料の配分等の共有地の管理を目的としており、「岡三沢共有地組合会則」を作成し、同日発効させた。本件帳簿類は、右同日以降、その保管及び作成が部落総代から控訴人に引き継がれた。
控訴人は、右同日、控訴人の契約代表として選任された北村に本件帳簿類の保管及び作成を委任し、同日以降、北村が被控訴人に引き渡すまで、右帳簿類の保管及び作成に従事してきた。
(三) 被控訴人は、平成二年五月九日、控訴人の内部紛争から、控訴人を脱退した組合員らによって結成された組合であって、現在の組合員数は約三〇名である。他方、控訴人には、現在においても一〇三名の組合員が加入している。
(四) 控訴人は、北村を被告として、昭和六二年六月一七日、第一事件帳簿類の引渡しを求める訴訟(第一事件)を提起した。控訴人が右訴訟において引渡請求の根拠としたのは、①委任契約の解除、②所有権、③控訴人の組合会則六条1、2の規定を選択的に主張するものであったが、第一審判決は、平成三年四月一〇日、控訴人と北村間の委任契約の存在を認め、右契約解除に基づく本件帳簿類の引渡請求を認容した。
北村は、同月一一日、右判決を不服として控訴を提起した。被控訴人は、右事件が控訴審において係属中の同年七月四日、北村に本件帳簿類の引渡しを請求しているとして、同人を補助するため補助参加の申立てをした。右控訴審判決は、第一審判決を維持する内容で同年一一月二九日に言い渡された。北村は、右控訴審判決を不服として上告したが、同五年五月二八日、上告棄却の判決により、第一事件は確定した。
(五) 被控訴人は、北村を被告として、平成四年に、第二事件帳簿類の引渡しを求める訴訟(第二事件)を提起したところ、北村が被控訴人の主張を全て認めたため、同年五月二八日、被控訴人の請求を全面的に認容する判決が言い渡された。被控訴人は、同年六月一八日、北村から第二事件帳簿類の引渡しを受けた。
(六) 控訴人は、平成五年六月一四日、第一事件について執行文の付与を受け、同年七月八日、北村に対し、青森地方裁判所十和田支部執行官により、本件帳簿類の引渡しを求める強制執行が実施されたが、既に帳簿類は被控訴人に引渡し済であるとして右執行は不能となった。そこで、控訴人は、同六年二月二三日、青森地方裁判所八戸支部書記官から、第一事件の判決について、被控訴人を北村の承継人とする本件承継執行文の付与を受けた。以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。
2 前記認定事実によれば、本件帳簿類は、これまで代々の部落総代によって保管及び作成されてきたものであるところ、昭和四七年に本件共有地の共有者全員の機関として控訴人が結成されたことにより、右帳簿類も部落総代から控訴人に引き継がれたものであることや、控訴人の結成された目的からすれば、控訴人の結成以降、その所有権は控訴人に帰したものと解するのが相当であるところ、控訴人は、第一事件において、第一事件帳簿類の返還を求める根拠として、判決が認めた北村に対する委任契約の解除のほか、右帳簿類の所有権に基づく返還請求をも選択的に主張していたものであり、右帳簿類の所有権が控訴人に帰していたことが認められる関係にあった右事件においては、債権的な性質を有する委任契約の解除の主張が認められない場合には、物権的な性質を有する所有権の主張が認められる関係にあった(乙第二号証によれば、同事件の控訴審判決は、右帳簿類について、控訴人の設立によって同人に帰属した旨判断していることが認められる。)ことは明らかというべきである。
3 被控訴人は、本件異議理由として、第一事件の引渡請求権は委任契約終了に基づく請求権であり、このような債権的請求権に対応する義務者は右委任契約の受任者に限られるから、その債権債務の関係外にある被控訴人に右権利の行使をすることはできない旨主張するが、右事件の引渡請求権は、単なる債権的請求権のみではなく物権的請求権である所有権をも兼ね備えているものであることは前記したとおりであるところ、右のような場合には、右事件の判決の効力は、同事件の口頭弁論終結後の承継人にも及ぶものと解するのが相当であるから、被控訴人の右主張は理由がない。
三 以上によれば、青森地方裁判所八戸支部書記官による本件承継執行文の付与に誤りはなく、被控訴人の本件異議の申立ては理由がないから、これを棄却すべきである。
よって、本件控訴はいずれも理由があるから、これと結論を異にする原判決及び原追加判決をいずれも取り消すこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官武田平次郎 裁判官栗栖勲 裁判官若林辰繁)